けん９全般について

• 建築、都市、集落、デザインなどを対象として研究をしています。研究トピックはバラバラのようで、私としては全てつながっているつもりなので、その関係や流れを、上のように図化しました。
• 常に、「面白い」研究を目指して取り組んでいます。面白い研究は、研究の「方法論」の鋭さや厚みによってもたらされると考えます。
• この複雑なる世界の「全体性」を捉え、「記述」（可視化・図化）する方法を考え出すことが、研究の喜びです。そのために、時間、空間、人間といった軸の広がりを意識しながら、世界を眺めます。また、言語やイメージなどのリッチなデータを取得し、定量と定性を往復しながら泥臭く分析することも、重要だと考えます。
• 以上のように、「建築」「街歩き」「デザインプロセス」のような「特定の研究対象についての専門家」ではなく、この複雑で面白い世界を記述する仕方をあれこれ考える「研究方法論の探究者」でありたいと考えています（「街歩き」などは、世界を記述するための切り口の一つ）。
• なお特定の仮説の検証や、問題解決、現状批判、社会貢献などを直接の目的とした研究はしません。勿論そのような研究も、大事だとは思いますが。
• ここで述べたような研究思想や方法論は、著書『街歩きと都市の様相』（特に第一部や第10章）で詳しく述べています。
• このページでは主要なもののみ紹介していますが、ほぼすべての業績や経歴は、researchmapに掲載しています。

書籍『街歩きと都市の様相―空間体験の全体性を読み解く』（2023）

• 街歩き研究の集大成。北の研究全体にも通底する研究思想・方法論や、原広司らに着想を得た都市の様相論を第一部「理論」にまとめた上で、「経路歩行実験の研究」を第二部「実験」として詳細に述べ、さらに第三部「実践」では「100ninmap project」 「ヨイタタンサケイカク」 「W&W」などの展開を盛り込んだ。
• 詳細・購入先：京都大学学術出版会／amazon
• 書評：岡部大介先生＠認知科学／埴淵知哉先生＠地理学評論／笠松咲樹さん＠建築討論／新建築2023年5月号
• 研究費：科研費「研究成果公開促進費」（代表・2022）
• 受賞：日本認知科学会・第11回野島久雄賞（2023）

経路歩行実験の研究

• 我々は普段、街を歩く中でさまざまなことを感じ取っている。目に見えること、音やにおい、曖昧な雰囲気、…。このような都市の全体的な在り方を「様相」という言葉で捉え、多くの被験者にひたすら道を歩いて、感じたことを紙に書いてもらう独自の「経路歩行実験」を元に、都市の様相の記述を試みる。そして量と質とを横断し、都市の歴史や人の記憶といった広い文脈のもとで、多面的に分析する。以降の北の全ての研究の、原点となっている研究。
• 著書：『街歩きと都市の様相』第一部／第二部
• 主要論文：学位論文（2012）／経路歩行実験と様相の記述（2010）／様相因子の分析（2011）／エッジ・エリアの分析（2011）／言語の質的分析によるフレーム概念の解読（2014）
• 研究費：学振「特別研究員DC2／PD」（2011-12）
• 展覧会：「研究の展覧会」 vol.1 modality -都市の様相論-（2012）／長岡造形大学建築・環境デザイン学科教員展（2022）

100ninmap project

• 経路歩行実験という線（経路）から、より広がりのある面へと展開し、スマートフォンアプリなどICT技術も援用して、都市エリアの質を多面的に記述・分析する研究プロジェクト。情報系研究者との出会いにより実現し、京都や静岡をフィールドとした地図制作、居住地選好の分析などに展開した。
• web：100ninmap project
• 著書：『街歩きと都市の様相』第9章（2023）／『The Social City』Chapter 14（2023）
• 主要論文：100人でつくる京都地図（2013）／焼津オノマトペマップ（2018）／いいのや全史地図（2019）／居住地選好論（2017）
• 研究費：株式会社LIFULLとの共同研究（分担・2015-16）

ヨイタタンサケイカク

• 新潟県長岡市与板町という小さな城下町において、街歩きを通じて独自の地図（など）を多数生み出し、地域の様相を複層的に浮かび上がらせる。長岡造形大学の学生が主役のプロジェクト。多数のイベントや小学校の授業などでも与板の街歩きを実施し、また「よいたあやしいまっぷ」「よいたかわいいまっぷ」は販売も行なっている。
• web：ヨイタタンサケイカク
• 著書：『街歩きと都市の様相』第9章（2023）
• 主要論文：よいたあやしいまっぷ・かわいいまっぷ（2021）／与板そらカメラ（2022）／よいたきえるかんばんマップBOOK（伊藤・2021）

W&W

• 「ひたすら歩いて紙に書く」という経路歩行実験での行為を、フィールドワークおよび発想の方法論として応用した。Walk & Write Method（W&W）と名づけている。地図とペンを持って街を歩き、把握した様相をどんどんと書き込み、次々と思考を展開する。大学教育におけるフィールドワークにも、導入している。
• 著書：『街歩きと都市の様相』第8章（2023）
• その他：長岡造形大生向けにまとめた資料

地面論

• 道路、公園、誰かの敷地、土間、荒々しい岩肌、…。地面は地球上のすべてをつなぎ合わせ、またさまざまな人が描き手として関わってきた、大きな「一枚の絵」に見立てることができる。地面の記述を行なうことで、デザイン行為の集積としての都市の変容を浮かび上がらせられるのではないだろうか。また「敷地」を扱う建築学、「土地」を扱う経済学、「道路」を扱う土木工学、「地質」を扱う地理学などの分野の垣根を越える概念装置となる。
• web：jimen.site～世界各地の約2,000枚の地面写真集
• 主要論文：京都の1街区の地面の記述（2013）／jimen.siteについて（2016）／地面と境界（2017）／インタビュー記事（2018）
• 研究費：科研費「挑戦的萌芽研究」（分担・2015-17）

サトヤマヴィレッジの研究

• 北九州市の郊外住宅地「サトヤマヴィレッジ」では、敷地境界が明示されず敷地同士が連続し、まるで林の中に家屋が点在するような様相を見せている。家屋自体の外見は周りの住宅街とさほど変わらないが、地面の工夫だけで、独自の景観を生み出した。この外部空間の構成が住まい手の暮らしにどう影響するのかを、全方位カメラを用いた行動記録によって明らかにする。
• 主要論文：行動の統計的分析（2018）
• 研究費：大林財団研究助成金（代表・2017）

街路構成論

• 経路歩行実験の研究から、道幅の広さがその場所で把握される様相と強く関係することがわかった（幅の広い道は建物も高く、交通量が多く、都市的な雰囲気であるが、ヒューマンスケールを逸脱しており居心地はよくない傾向）。ある都市エリアにおける街路幅員の分布は、そのエリアの様相の重要な一側面であると考えられる。方位、勾配、街路長や交差点形状なども含め、一定の手続きで街路の「構成」（構造ではなく）を記述するプログラムを開発し、分析する。
• 著書：『街歩きと都市の様相』コラム3（2023）
• 主要論文：街路構成の記述方法（2020）
• 研究費：科研費「若手研究」（代表・2019-21）

拡張的現象論

• 今私たちの暮らす都市は、それぞれの時代に、立場の全く異なる人たちが、それぞれにとってよりよい都市になるように、ときに大胆に、ときにささやかに、空間を、あるいは制度や風習や思想などを変え続けた結果、生まれたものである。このような無数の行為間の関係、あるいは無数の人々やモノの間の関係として、都市の変容過程は記述可能となる。理論研究とケーススタディ。上の図もこの研究を活かして、北の研究トピック間の関係性を描いた。
• 著書：『ソーシャルシティ』第2章（2023）
• 主要論文：イベントネットワークモデル（2015）／オブジェクトメッシュワークモデル（2016）／情報システム実装スタディ（2017）／ユースック村でのケーススタディ（2023）／京都の都市史の計量的分析（2015）

協働的デザインプロセス研究

• 多主体が協働でデザインを行なうその複雑な過程を、複雑なまま記述し、分析する。またその知見を元にデザインワークショップを設計し、実施し、またプロセスを記述する。京都大学デザインスクールでの教育実践を通じた探究であり、その後の長岡造形大学での授業設計にも展開している。
• 著書：『デザイン学概論』第12章の一部（2016）
• 主要論文：京大サマーデザインスクール（2016）／香港のワークショップ①（2016）／香港のワークショップ②（2018）／Preziによる記述（2017）／その英文（2017）
• web：Preziによるワークショップのプロセス記述

ユースック村の社会-空間系の研究

• タイ北部、山岳少数民族・アカ族の暮らすユースック村。1983年の定住開始以来、この村は常に変容を続けている。竹造から木造、コンクリート造へという家屋の変化、精霊信仰からキリスト教への改宗、海外への出稼ぎブーム、…。そしてそれらの変化が、複雑な関係性を示す。村に毎年、10年間通い続け、「社会-空間系」の変容をリアルタイムに、複雑なままに記述する。
• 著書：『居心地のいい村のつくり方』1章の一部（2021）
• 主要論文：GPS＋Grasshopperにる地図作成（2022）／定住開始から現在までの村の変遷（2023）／社会-空間系の記述スタディ（2023）
• 研究費：住総研・研究助成（代表・2019-22）
• 受賞：住総研・研究選奨（2023）

カマボコレクション

• 十日町の「大地の芸術祭2024」出展プロジェクト。雪深い里のあちこちに顔を出す、カマボコ型の建物。頭が尖っていたり、異様に大きかったり、民家と合体していたり…と、多様な形態、使い方が見られる。十日町市中条地区の特徴的なカマボコたちを実測やインタビューにより調査し、使い手たちの記憶や思いとともに、映像としてアーカイブする。日常風景を、鑑賞の対象へと転化する試み。

ひふみ荘

• 京都・西院のシェアハウス。元下宿屋で、不動産屋で見つけたときの間取りは「11DK」の一軒家を、自分たちで改修したりルールを作ったりしながら、10年間住み継いだ。年齢、職業や国籍も異なる、35名が居住。2019年に解散したが、その後大規模改修を行ない「ひふみsteps」として生まれ変わった。
• 主要論文：10年間のまとめ（2019）
• web：ひふみsteps

大見新村プロジェクト

• 京都の山奥で、無住化集落の新たな可能性を探る生活実験プロジェクト。個人的には茅葺古民家の改修を担当したり、ユンボを乗り回したり、台風で孤立したり、あと妙な結婚式をここでやったような気もする。長岡に移って以降ほとんど関われていないが、プロジェクトは現在もゆるゆると進行中。
• web：大見新村プロジェクト
• 展覧会：グループ展「逡巡のための風景」（2019）

現代の集落

• 長岡造形大学の北の研究室の学生で取り組む、3年生後期のスタジオ課題。長岡市周辺の自然の中の敷地に、新しい集落を、ゼロから立ち上げる。空間と時間と人間、建築とランドスケープと社会システム、他者の存在と自己の思想、などが絡み合う中で、その全体性を描き出す。文献渉猟や、柏崎市荻ノ島や長岡市栃堀など既存集落のフィールドワークも行ないながら、現代ならではの集落の構想を羽ばたかせる。研究室の一大テーマとなり、卒業研究の多くもここから芽吹いている。

その他

• 卒業研究でダイエーのリノベーション：学内優秀賞（2006）／福岡デザインレビュー2006 ベスト4（2006）／『近代建築別冊 卒業制作2006』掲載（2006）／第1回街並みの美学トラベルスカラシップ受賞（2006）
• 嵐山とホイアンの観光地化の研究：上記スカラシップにより実施
• 現象化建築展（グループ展・2006）
• 嵯峨嵐山プロジェクト（共同代表）
• デザイン学論考（編集長・2014-2019）

プロフィール

• 1982年、兵庫県姫路市生まれ。
• 京都大学にて学位を取得（2012）後、京都大学学際融合教育研究推進センターデザイン学ユニット特定助教/特定講師を経て、2019年より長岡造形大学造形学部建築・環境デザイン学科助教。2023年より准教授。
• 博士（工学）／一級建築士／宅地建物取引士／将棋アマ三段
• ほぼ全ての業績は、researchmapにて掲載。